- 『青春バンドTRPG ストラトシャウト』で再現できるストーリー類型と、『ぼっち・ざ・ろっく!』や『ボヘミアン・ラプソディ』のストーリー
- バンドもの作品のストーリー類型
- 『ストラトシャウト』のターゲットには「音楽活動をする決意」をさせよう
- TRPGで『ぼっち・ざ・ろっく!』や『ボヘミアン・ラプソディ』を再現する3つの方法
- 結論
- 今後の課題
- TRPGシナリオ書きたいサーバー Advent Calendar 2023
皆さんはTRPGで『ぼっち・ざ・ろっく!』や『ボヘミアン・ラプソディ』を再現したいと思ったことはありますでしょうか?
私はあります。
TRPGを通じて『バンドリ』も『ささやくように恋を唄う』も『スクール・オブ・ロック』も布教したいと思うことが山程あります。
バンドものシナリオを書く人が増えてほしいので、それらの夢を叶える手段をこれから3つ紹介します。
ここでTRPGに詳しい諸氏は思うことでしょう。
「3つ」だって? 「たったひとつの冴えたやりかた」では? 我々には『青春バンドTRPG ストラトシャウト』があるじゃないか?と。
たしかに『ストラトシャウト』はバンドものシナリオ専用である唯一の商業TRPGです。制作は冒険企画社、システムもTRPGプレイヤーにはおなじみのサイコロ・フィクション。バンドものシナリオを書くにあたって『ストラトシャウト』を超える選択肢など一見なさそうです。
しかしながら私は『ストラトシャウト』で『ぼっち・ざ・ろっく!』や『ボヘミアン・ラプソディ』を再現するにあたって根本的な問題にぶち当たりました。
一言で要約すると、「『ストラトシャウト』はバンドものの中でも特殊なストーリー類型の再現に特化したシステムだ」ということです。
『青春バンドTRPG ストラトシャウト』で再現できるストーリー類型と、『ぼっち・ざ・ろっく!』や『ボヘミアン・ラプソディ』のストーリー
ここで『ストラトシャウト』のシナリオ構造を説明するために、公式のシナリオシートを見てみましょう。
https://bouken.jp/pd/st/pdf/ss_scenario_sheet.pdf
「シナリオ名」の次、左上の一番目立つところに「ターゲット」とあり、その下に「シガラミ状況」と続いていますよね。
『ストラトシャウト』は「『接近シーン』で『ターゲット』の『シガラミ』を『公開状態』にし、『ライブフェイズ』では『シガラミ』の妨害を受けながらも『ターゲット』の『DP』(Distance Pointの略。PCたちとターゲットの間の心の距離)をなくす」というシナリオがメインのゲームです。ライブへの出演や演奏についての障害は「サブシナリオ」に分類されています。
そしてこの「ターゲット」は「PCがライブフェイズで歌を届ける相手であり、メインシナリオの中心的なNPCです。PCのうち誰か一人以上の知り合いです」とルールブックp.193に記載されています。
さて、『ぼっち・ざ・ろっく!』(アニメ)や『ボヘミアン・ラプソディ』に、主人公たちがライブで歌を届けたい特定の知り合いは出てきたでしょうか? ライブが成功することで主人公たち以外の特定人物の悩みが解消される描写はありましたでしょうか?
なかったはずです。(『ぼっち・ざ・ろっく!』第5巻「特別編 星に手向けるあいの花」については、あとで説明します)
『ぼっち・ざ・ろっく!』(アニメ)や『ボヘミアン・ラプソディ』をバンドものとして傑作たらしめているのは、「バンドメンバーや支援者の結束」「高品質な楽曲や映像」「観客の熱狂」であり、特定の観客の人生を変える描写ではありません。
そして『ぼっち・ざ・ろっく!』(アニメ)や『ボヘミアン・ラプソディ』は例外ではありません。
バンドもの作品のストーリー類型
私が愛聴している「ゆる言語学ラジオ」の食レポシリーズにて、音楽漫画で音楽を聴かせる手法として、
- 『BECK』は「観客の熱狂」
- 『BLUE GIANT』は「聞いた人の人生が変わる」
- 『日々ロック』は「文字と構図」
と例示していました。
この分類は「文字と構図」を「高品質な楽曲や映像」に置き換えれば映像作品にも応用できるでしょう。
つまり、音楽を題材とする映像作品で音楽の力を演出する方法で、
- アーティストたちのパフォーマンスに焦点を当てるのが「高品質な楽曲や映像」
- アーティストたちが受ける承認や達成感に焦点を当てるのが「観客の熱狂」
- アーティストたちのライブを見た個人に焦点を当てるのが「聞いた人の人生が変わる」
というように、送り手と受け手の間のどの時点に焦点を置くかの違いで分類できます。*1
そして、「高品質な楽曲や映像」「観客の熱狂」「聞いた人の人生が変わる」の中で、「聞いた人の人生が変わる」だけは少数派、または、作劇上のほかの目的を実現するために利用されることが大半です。
なぜ少数派かと言うと、ライブの直後はライブ結果に対する主人公たちのリアクションを描きたいからです。そのリアクションが読者の予想通りだったら「感情移入」、予想外だったら「面白さ」に貢献するため、どちらが目的にせよ、他のものを描く理由がないからです。*2
また「作劇上のほかの目的」も一言で要約できます。「音楽活動をする決意」をさせることです。
バンドものですと、「既存ユニットが結束する」ならライブをしたユニットが結束してどうなったかを描けますし、「新しいユニットを結成する」なら物語の主役を自然にバトンタッチできます。*3*4*5
たとえば、『バンドリ』3期の中盤はPoppin'Partyではなくロック加入後のRaise A Suilenが主役になりますし、『ぼっち・ざ・ろっく!』第5巻「特別編 星に手向けるあいの花」では主役が伊地知星歌のバンドから伊地知虹夏のバンドへ引き継がれます。
『ストラトシャウト』のターゲットには「音楽活動をする決意」をさせよう
以上の議論から、『ストラトシャウト』での再現に適した、かつ、バンドもので主流の物語類型は、「『ターゲット』に『音楽活動をする決意』をさせる」です。
この物語類型の利点は「いかにもバンドものっぽい」こと以外に、もう一つあります。
「その『ターゲット』が始めた音楽活動」として、歌詞シートに記載した曲とは別の曲を流すことで、1回のセッションで2つの曲を布教することができるのです。いわゆる「アンサーソング」というわけです。
- Roselia「BRAVE JEWEL」に対するアンサーとしてのRaise A Suilen「R・I・O・T」
- Poppin'Party「Step×Step!」に対するアンサーとしてのRaise A Suilen「EXPOSE ‘Burn out!!!’」
- リヤン・ド・ファミユ「大切がきこえる(双龍島アレンジ)」に対するアンサーとしてのDragon≒Nuts「サクラサクミライコイユメ」
どうでしょうか?
「合法的に推し曲を布教できるTRPG」こと『ストラトシャウト』の特徴を最大限に活かしたシナリオにならないでしょうか?
TRPGで『ぼっち・ざ・ろっく!』や『ボヘミアン・ラプソディ』を再現する3つの方法
さて、そもそもの議論の発端は「TRPGで『ぼっち・ざ・ろっく!』や『ボヘミアン・ラプソディ』を再現する方法」でした。
PCたちがライブで歌を届けたい特定の知り合いがいなくてもシナリオを書ける、作中で戦わずにライブをするだけで盛り上がるシステムなんてあるのでしょうか?
ここからはそれらを3種類提示します。
戦闘のないシステム
戦闘がなくてもセッションを盛り上げられるシステムです。
戦闘ルールがなくても、通常の判定ルールを使い、達成困難な目標値を設定することでクライマックスを演出できます。
戦闘でNPC以外と戦えるシステム
戦闘ルールでNPCではなく無機物や概念的なものとも戦えるシステムです。
エネミーとして「東京ドームの魔物」「アウェイ感」「観客の不調和」などを設定した戦闘でクライマックスを演出できます。
ランダムでアクシデントが発生するシステム
中盤にランダムで発生するアクシデントにどう対処するかを主眼としたシステムです。
特に『駆け出しアイドルRPG ビギニングアイドル』は基本ルールブックp.210で「バンドアイドル」をサポートしていたり、同p.208には「バンドアイドル仕事表」があったりするため、公式のままでもバンドものシナリオを描けます。
結論
『青春バンドTRPG ストラトシャウト』のシナリオで「『ターゲット』に『音楽活動をする決意』をさせる」と、「いかにもバンドものっぽい」だけでなく、1回のセッションで2つの曲を布教することができます。
『ぼっち・ざ・ろっく!』や『ボヘミアン・ラプソディ』のような、「聞いた人の人生を変える」訳ではないシナリオを書きたい場合は、
- 戦闘のないシステム
- 戦闘でNPC以外と戦えるシステム
- ランダムでアクシデントが発生するシステム
を使うことで、ライブをクライマックスにしつつセッションを盛り上げられます。
それでは良きTRPGライフを!
今後の課題
バンドものでは音楽性その他の違いによるすれ違いが発生しがちなのですが、PC同士を死なない程度にすれ違わせる、ましてやそれをシナリオのメインにするのはTRPGでは難しいです。
「公式で秘匿ハンドアウトとPvPをサポートしている」「バンドマンのPCを作れる」を満たすシステムとなると『ストリテラ オモテとウラのRPG』や『マルチジャンル・ホラーRPG インセイン』が該当します。
しかしながら、具体的にどのようなシナリオなら楽しく喧嘩できるのか思いつかないです。*6
「殺伐百合」は私の好物なので、もしこの問題を解決できたら教えてくれると助かります。
TRPGシナリオ書きたいサーバー Advent Calendar 2023
この記事はDiscordサーバー「シナリオ書きたい」の2023年アドベントカレンダーの一環として執筆いたしました。
アドベントカレンダーとは、12月1日からクリスマスまで、いろいろな人がリレー形式で、テーマに沿った記事を公開していくお祭りカレンダーです。
TRPGシナリオ・システム・ソロジャーナリングRPGのいずれかに興味のある方は以下のリンクからほかの方の記事ものぞいてみてください。
*1:倫理学における「功利主義」と「カント倫理学」の対立が「帰結主義」と「非帰結主義」の対立に言い換えられるのに似ていますね
*2:音楽漫画の中でも『BLUE GIANT』が音楽を聴かせる手法として「聞いた人の人生が変わる」を採用しているのは、彼らが演奏するのは歌ものではないジャズだから、
- 歌詞やレタリングで演出できない
- コール&レスポンスもできない
- リズムが変則的だから観客が体を揺らしにくい
という消去法的なものではないかと推測します。
*3:『バンドリ』シリーズはバンドアニメでは比較的「聞いた人の人生が変わる」を多用しますが、人生が変わった結果は「既存ユニットが結束する」「新しいユニットを結成する」の2つに集約されます。たとえば、「既存ユニットが結束する」は2期11話(Poppin'Party「Returns」)やMyGo1期10話(MyGo!!!!!「詩超絆」)、「新しいユニットを結成する」は3期3話(Poppin'Party「Step×Step!」)が該当します。
*4:バンドものはパート担当の都合上、メンバーが欠けたり増えたりするとライブ自体が難しくなるため、「ユニットのメンバーが増える」は『けいおん!』のあずにゃん加入ぐらいしか例がないですが、アイドルものだとライブに人数の成約がないため多用されます。たとえば『ラブライブ』シリーズでは、メンバー集めのために少人数でライブをするのが序盤の通例となっています。
*5:放送開始までアイドルものであることを隠していた『ゾンビランドサガ』は、アイドルもの愛好家以外にも訴求するために、「聞いた人の人生が変わる」が「音楽活動をする決意」はしないエピソードを大量に入れています。
*6:『インセインシナリオ集 ブラックデイズ』所収の「ライブ&ライバル」はPC同士の友情が確実に破壊されるのでノーカウントとします。