薩摩和菓子の考察記録

薩摩和菓子(@satsumawagashi)が考察したことを置いておく場所です。

『マモノスクランブル』で戦闘なしでも盛り上がるシナリオを書こう

TRPGシステムにあったら嬉しい5つのこと

皆さんはTRPGのシナリオを書いていて、「NPCと殴り合うわけじゃないけど、体力的なものを削り合う緊張感を演出したい」と思うことはありませんか?

私はあります。

シナリオの中でPCたちに極道入稿や法廷バトルや料理対決やライブエイドやカーレースやヤシオリ作戦をさせたくなることは数え切れないほどあります。

もちろん、成功困難な達成値で行為判定をさせてもいいでしょう。

Aの魔法陣』のように、行為判定の汎用性と面白さを追求したシステムもあります。

もちろん、それ専用のシステムでシナリオを書いてもいいでしょう。

バンド活動で心の距離を縮めるなら『ストラトシャウト』、アイドル活動でファンを増やすなら『ビギニング・アイドル』、社畜として世界を救うなら『ネバー・レイト・ナイターズ』、破滅フラグを折るなら『ルーイン・ブレイカーズ』、TCGで決闘するなら『カードランカー』、真相を推理するなら『フタリソウサ』や『赤と黒』など、目的ごとに様々な戦闘ルールを持つシステムがあります。

しかしながら、

  1. 戦闘ルールにNPCだけでなく無機物や概念的なものとも戦えることを明記している
  2. 商業システムで入手しやすい
  3. ルールやデータが簡単
  4. プレイ人数やプレイ時間の柔軟性が高い
  5. キャラクリエイトの自由度が高い

上記をすべて満たすシステムがあったら、今まで泣く泣く諦めてきたあんな展開やこんな展開を描けると思いませんか?

それができるのが『マモノスクランブル』なんです!

『マモノスクランブル』とは?

『マモノスクランブル』は〈東京〉に生きるマモノとなって、日常で起きるさまざまな事件を解決していくTRPGシステムです。

〈東京〉という表記ですが、イメージとしては現代の東京に『血界戦線』のヘルサレムズ・ロットができた感じです。人間とマモノが共存し、超常的な現象が日常的に起こります。

使用ダイスは12面体ダイスを1人あたり4個程度。

判定は、特性の演出やマリョク消費で最大3個までダイスを増やし、PCの能力値以下の出目があれば成功です。

では、この『マモノスクランブル』がいかにして「TRPGシステムにあったら嬉しい5つのこと」を満たしているか見ていきましょう!

1.[ロケアクション]も[ゆるアクション]もNPCだけでなく無機物や概念的なものとも戦えることを明記している

『マモノスクランブル』では各PCが20の【耐久値】を持っており、0になると[ノックアウト]として行動不能、シナリオによっては[死亡]としてロストします。

この【耐久値】は「マモノのタフさ」であり、身体的な負傷だけでなく、精神的ストレスや、経済的損失によっても減少する、シナリオを継続する能力を総合したものになっています。

そして、『マモノスクランブル』には「全PCの【耐久値】が0になる前に目標を達成できるかを、複数回の行為や[判定]で決めるルール」が[ロケアクション]と[ゆるアクション]の2つあります。

まず、[ロケアクション]はいわゆる戦闘です。

ラウンド、エリア、イニシアチブ、スキル(作中での呼称は〈マギ〉)の概念があり、PCたちとエネミーで【耐久値】を削り合います。

そして、エネミーはNPCだけでなく無機物や概念的なものでもOKとルールブックに明記されています。

[エネミー]は必ずしも人間やマモノだけとは限らない。例えば"バリケード"、"白紙の原稿"、"相手の論拠"など無機物や概念的なものも[エネミー]になりうる。攻撃(作業)の演出は各マモノ(PC)が自由に行ってくれ。

からすば晴『マモノスクランブル』(2023)、富士見書房、p183

私はこの文章から『コミックマスターJ』や『逆転裁判』をやれという声が聞こえてきました。

そして、[ゆるアクション]は[行動フェイズ]の目標達成に【耐久値】の減少と回復を追加したものです。

GMが[目標]と[必要進行度]を提示し、PCたちは持ち回りで[判定]することで[進行度]を上げていくのは[行動フェイズ]と一緒ですが、[ゆるアクション]では[判定]をするたびに【耐久値】が減少し、全PC共有のリソースである[マリョク]を消費することで【耐久値】を回復できます。

ルールブックが想定している使用例を引用しましょう。

たとえば「カレーを100人前作る」とか「ライブを成功させる」とか、そういう大きな目的だ。

同上、p198

私はこの文章から『将太の寿司』や『ボヘミアン・ラプソディ』をやれという声が聞こえてきました。

2.商業システムで入手しやすい

私はオフラインセッションがメインなのでルールブックは紙派なのですが、同人システムはルールブックがPDFのみであったり、ブラウザでしか閲覧できなかったり、紙版が存在しても入手性が低かったりと、人に勧めづらいものが多い印象です。

その点、『マモノスクランブル』は2023年8月に発行されたばかりの商業システムであり、紙版の新品が入手しやすく、電子書籍もあります。

サプリメントはなく、基本ルールブックは2000円+税とお財布にも優しいです。

また、からすば晴氏の個人ページにてルールとデータの大半が閲覧できるので、無料同人システムにも似たハードルの低さがあります。

3.ルールやデータが簡単

こちらがルールサマリーなのですが、シナリオで使用するすべてのルールが1枚に収まるぐらい簡単です。

https://karasuba-sei.biz/officialsite/wp-content/uploads/2023/08/mamono_rule.pdf

ではPC作成が複雑かというと、初期作成で[特性]4つと〈マギ〉1つを取得する以外はすべてフレーバーです。

そして[特性]も「演出に組み込むと判定に使えるダイスが増える」だけで数値的なデータがなく、ルールブックに記載されているのも例に過ぎません。

よって、基本ルールブックで記載されている21個のマモノ用〈マギ〉にさえ目を通せば、問題なくPCを作れます。

クラン作成もありますが同様の理由で、基本ルールブックで記載されている12個のクラン用〈マギ〉にさえ目を通せば、問題なくクランを作れます。

4.プレイ人数やプレイ時間の柔軟性が高い

TRPGでいちばん大変なのはプレイヤー集めとセッション時間の確保と言っても過言ではないでしょう。

実際、各種概念との戦闘ルールを持つシステムとしてあげたものには、シナリオによってプレイヤー人数に融通が利かない物が多いです。

ストラトシャウト』はシガラミやステップ数、ターゲットのDPを調整する必要があり、『ネバー・レイト・ナイターズ』はPL3~4人用、『ルーイン・ブレイカーズ』はHO制、『カードランカー』はサイクル数の調整が必要、『フタリソウサ』はPL1~2人用、『赤と黒』は推奨PL4人で2~3人の場合はエネミーデータの調整が必要です。

対する『マモノスクランブル』はプレイ人数はGM含めて1~5人。シナリオはソロとマルチに分かれており、マルチシナリオはPC人数に応じて[必要進行度]やエネミーの【耐久値】が自動で調整されます。

また、エネミーの強さについても、PCの成長度(作中での呼称は「強度」)から[脅威度]を算出し、[脅威度]に応じた数のエネミー用〈マギ〉を取得することで調整できます。

また、GMがPCとして参加するGMCも、公式でサポートしています。

プレイ時間はキャラ作成を除いて2~3時間です。

ワンナイトセッションに最適です。

シナリオは簡単に作成できるので、コンベンションなどで時間が余ったらもう1シナリオやればいいでしょう。

5.キャラクリエイトの自由度が高い

多くのTRPGはPCの種族または職業に制限があります。

自由度が高いと言われる『クトゥルフ神話TRPG』は公式では人間しか作れませんし、逆にファンタジー系システムは複数の種族を用意しているものの職業としては冒険者や旅人しか作れないことが多いです。

『マモノスクランブル』は〈東京〉に生きるマモノであれば、[特性]として取得できるかぎりで何でも作れます。

まずは種族です。

〈東京〉は地理的時代的に現代日本の東京と同じとして、「マモノ」については作中の「国際基準」を見てみましょう。

  1. (自分の)意思と(人間への)伝達手段を持つ
  2. (マモノとしての)自覚がある
  3. マリョク反応がある

シナリオの進行上、現代日本の交通インフラで物損を出さずに都内を移動さえできれば、邪神だろうが巨大ロボットだろうが小動物だろうが問題なく作れます。

逆に言うと、元人間でも、人間とほとんど変わらない外見でも、マモノとしての自覚が薄くても、マリョクを必要としさえすればマモノです。

たとえば、マモノの血を引いたり体の部位を移植された「半妖」や、神様や厄介者として祀られてしまった「生き神」、マモノに取り憑かれた「憑き者」でもPCにできます。

そして職業は、【社会】の[特性]として取得するものなので、GMが許可するかぎり、あらゆる職業を[特性]数の上限まで兼業できます。

『マモノスクランブル』のシナリオを書こう!

『マモノスクランブル』の魅力が伝わりましたでしょうか?

ちなみに私は『マモノスクランブル』で逆転裁判』をするシナリオ『客演裁判 スクランブる逆転』を書き、TALTOで公開しました

talto.cc

今度はあなたが『マモノスクランブル』でシナリオを書く番です!

番外編

有識者から情報提供があったものの、TRPGシステムにあったら嬉しい5つのこと」をすべて満たしていなかったので割愛したシステムを紹介します。

魔法学園RPG ハーベスト

同人サプリでもOKなのでしたら、魔法学園RPGハーベストの「フロントライン・ファイターズ(FF)」という同人サプリを導入することで、「概念のエネミー」を作れます。

FFには「拠点戦闘」というルールがあり、文字通り戦闘を支える拠点を設定できるのですが、この「拠点」は必ずしも実態があるものではなく、例えば「敵の力の根源」「スポーツの得点」なども拠点として設定できるため、「概念を敵(の拠点)として設定できる」ことになります。

月見里宙氏から情報提供いただきました。

『魔法学園RPGハーベスト』は武装少女RPG プリンセスウイング』の作者である涼宮隼十氏が無料で公開しているシステムです。

同人かつサプリの導入が必要であることから、割愛いたしました。

常夜国騎士譚RPG ドラクルージュ

「ドラクルージュ」にはまさしく概念の敵(君主への嘆願とか乗り越えるべき試練とか)とダイスを振って戦うためのデータがあります。使い勝手いいんだよな…

ぱむだ氏から情報提供いただきました。

『常夜国騎士譚RPG ドラクルージュ』は『ゆうやけこやけ』『永い後日談のネクロニカ』の作者である神谷涼氏がデザインしたシステムです。

「真祖の系譜たる吸血鬼の力を持つ騎士として、堕ちた同胞や太陽の欠片と戦い、あるいは友との交流やロマンスに耽る」というコンセプトであり、PCは吸血鬼かつ騎士で固定されているので、割愛いたしました。

TRPGシナリオ書きたいサーバー Advent Calendar 2023

この記事はDiscordサーバー「シナリオ書きたい」の2023年アドベントカレンダーの一環として執筆いたしました。

アドベントカレンダーとは、12月1日からクリスマスまで、いろいろな人がリレー形式で、テーマに沿った記事を公開していくお祭りカレンダーです。

TRPGシナリオ・システム・ソロジャーナリングRPGのいずれかに興味のある方は以下のリンクからほかの方の記事ものぞいてみてください。

adventar.org